あなたを失おうとしていたんじゃないわ。
ただの好奇心なの。
ずっと一緒に居たかっただけなの。
他のひとに取られるのが厭だったの。
「どんな別れなら悲しまずに済むと思う?」
あなたは死にかけで、もうさよならする時が来るって解ってた。
涙を溜めてあなたは言ったもの。
「ぼくのことをわすれてしあわせになって」
なんで、わたしのことをあいしているのに、そんなことをいうの?
「わたしは、あなたなしじゃあ生きていけないよ」
涙があふれそうになるのを必死で押さえて、でもためらいなく涙はぽろぽろこぼれてきて、ぐちゃぐちゃで前が見えなくなっちゃう。
ぎゅって、あなたの弱弱しくなった大きくて頼りがいのある手を握った。
でももう遅くって、
もうあなたはあったかくなくて、
するすると握っていたはずのあなたの手が、
力なく抜け落ちていった。
「ああ、ああ、ああ、」
声にならない声であなたを呼ぶけれど、あなたは何にもいわないの。口をつむいだまま、目をとじてわたしと目を合わせてくれないの。
ひどいよ。
だれにも、
もう、
わたしたくないの。
あなたがいなくなった――ううん、いなくなったって、変よね。
あの日から、一週間。
あなたが何にも言わなくても、目を合わせてくれなくても。
わたしとずっといっしょ。
あなたはわたしのなかにある。
「いただきます」
お行儀よく手を合わせて感謝の言葉を言うの。
きちんと整列しているナイフとフォークをはしっこからつかんでいく。
オーブンで焼いたおいしそうな肉。
「あなたってなんてやわらかいのかしら」
--
いわゆるおとぎ話でブラックシュール。
PR